咬みあわせと視力

こんにちは!今回は視力について。

 視力と咬み合わせは大きく関係しています。

 

近年わが国の若年層の視力低下は著しく視力低下の始まる年齢、視力低下速度とも早まっています。このような国民病ともいうべき日本人の視力低下の原因として、テレビゲームや過度の読書習慣など生活習慣の変化を指摘する声も多いですが、その真の原因は分かっていません。

 

これに対して、食物の軟化にその一因があると考えた研究者のグループがいます。軟らかいものを食べることが多くなったため咀嚼の必要が薄れ、目の毛様体筋を含む顔面の筋力が低下し、水晶体の調節を困難にした結果、視力を低下させたとする仮説です。この仮説を検証するために、アンケート調査ならびに咬合力の測定などが行われています。

 

看護学生272名に対して咬合状態と視力に関するアンケート調査が行われました。咬合状態を知る1つの指標は虫歯の数です。とくに第一大臼歯(奥から2番目の歯)は人の体重とほぼ同じ程度の荷重に耐えるといわれていて、咬合力の指標として選ばれることが多いです。

そこではじめの調査として第一大臼歯の虫歯の数と視力の関係をアンケートしました。

 

対象者全員の視力の平均値は0.29であった。しかし4本の第一大臼歯のうち虫歯の数が2本以下と3本以上の2群に分けて、各群の視力の平均値を求めると、前者が0.31であったのにたいして後者は0.22と低い値を示した。このことは、第一大臼歯が残っていて咀嚼力の大きなグループのほうが視力がよいということを意味する結果です

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次に、日常の食生活のなかで硬い食品と軟らかい食品のどちらを好んで食べるか、食品の嗜好について質問しました。

その結果・・・硬めの食品を好むグループの視力の平均値は0.31、軟らかめを好むグループのそれは0.27と、硬めを好むほうが視力が若干よいことが明らかになりました。

 

さらに食品嗜好の心理的背景をさぐるために、調査対象者が日常摂取する食品のうち、硬いと感じる食品を聞いたところ、上位にはせんべい、するめ、リンゴなど、硬さの性質は違うものの納得できる回答が並んびましたが、そこに現れた食品には普通は硬いと評価できない「ご飯」と答えたものが、272名中8名(約3%)ありました。一部の回答者の日常食生活が軟食品だけで構成されている可能性をうかがわせる結果です。また「これまでに食べたもっとも硬い食品」に対する回答には、フランスパンというものもみられ、極端に軟食の傾向をもつ者が含まれていることを示しています。IMG_20150417_0004

 

同様に日常摂取する軟らかいと感じる食品を聞くと、豆腐、麩など古くからの日本の食品が少なく、その多くは比較的近年になって摂取されるようになった外来の食品で占められていました。たとえばヨーグルト、プリン、ゼリーなどで代表されるものであり、その大部分は咀嚼をほとんど必要としない食品でした。

 

これらの資料を揃えたうえで、今度は同一食物に対する正常視力者と低視力者の食品感覚を比較しました。

標準化された食物の硬さの判定表から、比較的一般的な20食を選び、「非常に硬い」から「非常に軟らかい」までの5段階に分けて食物の硬さを、調査対象者に評価してもらいました。その結果、ある特定の食品について、正常視力者はおおむね軟らかいと評価をすることが多く、低視力者は硬いという評価をする傾向があり、両者の間で食物の硬さに対する評価に違いを示していました。これは正常視力者と低視力者の、日常の食生活における食品構成に違いがあることをうかがわせるものでした

 

これらのアンケート調査とは別に、高校2年生の男女を対象に、咬合力計を用いて、第一大臼歯の咬合力の測定を行ない、視力との関係を検討した研究があります。その結果は、咬合力は男女とも正常視力者の平均が低視力者を上回りました。これらの結果は、いずれも食物の軟化が視力低下の一要因となるという仮説を補強するものです。しかし、咬合力の低下と視力の低下の相関は動物実験などの基礎的手法で実証されたことはなく、あくまで集団を対象として傾向をみたときに、両者の因果関係が浮かび上がってきたということにすぎないのです。ただ、近年の日本人若年層の急激な視力の低下は、食生活を始めとする生活環境の激変の結果であるとする考えは注目に値すると言えます。

 

参考資料:咀嚼健康法~脳と体を守る~ 上田 実著 より引用

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